赤痢アメーバ症について

 赤痢アメーバ症は赤痢アメーバ(Entamoeba histolytica)による大腸感染症で,熱帯,亜無熱帯に広く分布し,近年では男性同性愛者に流行し,性行為感染症としても注目されています。 アメーバ赤痢は1999年より施行された感染症新法による第4類感染症に分類され,届出の義務があります。

感染経路
赤痢アメーバ症は赤痢アメーバ原虫の経口感染により起こる疾患です。赤痢アメーバには栄養型と嚢子の2つの形態があり,栄養型は運動性があり,大腸の組織などを食べて増殖し,大腸粘膜に集落を形成し,ときに血行性に移動し20~30%に肝膿瘍などの腸外アメーバ症を生じます。大腸にいる一部の栄養型が嚢子になり,便とともに排出されます。排泄された栄養型は抵抗力が弱くて死滅しますが,嚢子は生き残ります。この嚢子が人から人へ直接に広がるか,食物や水を介して広がります。
赤痢アメーバには病原種であるE.histolyticaと非病原種のE.disparの2種があります。E.disparはおとなしく大腸でいますが,Entamoeba histoltticaは大腸の粘膜上皮から粘膜下層で組織を破壊しながら増殖して潰瘍を形成します。赤痢アメーバ症はこのEntamoebahistoltticaの嚢子感染により発症するとされています。赤痢アメーバはわが国では稀な疾患とされてきましたが,1980年より報告例は増加し年間150~200人の報告があります。

症状と診断
病型は腸アメーバと腸外アメーバに分けられます。潜伏期間は1~14週でありますが1年以上して発症した例もあります。アメーバ赤痢は細菌性赤痢に比べて発症は緩徐で,多くの症例が腹部の痛み,イチゴゼリー状の粘血性下痢です。回盲部やS状結腸に圧痛があり,お腹が張る感じ,腹部が不快な感じはありますが,腹痛は強くありません。また,発熱や残便感があり何回も排便したい感じは軽く,全身状態はいいです。症状の有るのは感染者の約10%との報告があります。
腸外アメーバはどの臓器にもありますが,通常は単発の肝臓の右側の肝膿瘍が最もよくみられます。女性より男性(7~9倍)に多いとされ,症状は肝臓の辺りの痛みや不快感,間欠性の発熱で,黄疸はまれとされます。また腸管の感染症がみられないままに肝膿瘍を形成し初めて診断されることも多いです。

診断
潰瘍性大腸炎,クローン病などの炎症性腸疾患や,病原性大腸菌,細菌性赤痢,サルモネラ症,住血吸虫症などの他の感染性腸炎,大腸癌との鑑別診断が必要です。アメーバ赤痢の便は粘り気のある粘液や,血液の両方が混じっているのが特徴です。腸外アメーバ症であるアメーバ性膿瘍は,細菌性膿瘍,エキノコックス嚢胞などと似ていることがあり,鑑別が必要です。
アメーバ赤痢の診断法には糞便検査、内視鏡検査、血清学的診断法があります。採血の間接蛍光抗体法による赤痢アメーバ抗体と内視鏡検査による生検組織による比較検討では、内視鏡による病変部位生検による原虫陽性率は検体別で39%と高率ではなく、採血による赤痢アメーバ抗体の陽性率は83.3%と高率であったと報告があります。また、生検部位では潰瘍、発赤部位よりむしろびらんよりの採取が高率に原虫を証明できます。
病理診断にあたって細胞融解壊死物質の存在が診断のポイントとされており、生検診断にあたっては生検部位の工夫が必要とです。赤痢アメーバ抗体は、肝膿瘍合併例、症状発症期間が長いほど陽正率が高い傾向にあったとの報告があります。
アメーバ性大腸炎の病変部位および病型では,部位別では直腸が87%、S状結腸は47%、盲腸が50%の順に多く、病型別では病変が直腸S状結腸中心の下部結腸型が45%と最も多く、回盲部中心の上行結腸と直腸中心の下部結腸にスキップしたスキップ型が24%、全結腸型が21%、回盲部、上行結腸中心の上部結腸型が7.7%で、そのうち回盲部限局型は2.6%と稀であったとの報告があります。また、アメーバ赤痢の特徴的な内視鏡所見として,周囲が軽くもりあがり、紅ぐんを有し、中心に黄白色の白苔を有する境界明瞭な小潰瘍が多いとされています(写真)



赤痢アメーバ(回盲部)の内視鏡所見:回盲弁の発赤と上行結腸に黄白色の白苔を有する潰瘍性病変を認めます。
腸外アメーバは便検査は通常陰性で,吸引した膿から栄養型が見つかることもまれです。アメーバ性肝膿瘍の場合は,抗アメーバによる治療を試みるのが最も有用な診断的手段とされています。黄色からチョコレート色をした濃い半流動性の物質が特徴ですが,現在ではドレナージ(排膿)はあまり行われません。
病変部が10cm以上の場合,今にも破裂しそうな疑いがある場合,あるいは薬による5日間の治療に対する反応が不良の場合に限られます。

予防
人間の糞便による汚染された食物や水の摂取をさけること。予防する有効なワクチンはありません。経肛門性交による感染につては日本では,100人の異性間中1%,120人の風俗営業の女性の20.4%,216人の同性愛中20.4%がアメーバの血清の抗体が陽性でありました。日本の3大都市で同性愛者の56%がHIV感染者で,そうち45%が症状がある赤痢アメーバ症です。
消毒は塩素の場合,細菌を殺すには十分な濃度でも赤痢アメーバの嚢子は殺せません。しかし,水を煮沸するかテトラサイクリンハイドロペリオキオジド錠剤で処理すれば(1L当たり1~2錠)、嚢子は死にます。

治療
腸赤痢アメーバ,腸外アメーバともメトロニダゾールが著効します。
経口メトロニダゾールによる5~10日間投与します(成人には750mgを1日3回分割投与)。または,薬の副作用を少なくするため,2.4gを2日投与が考慮されます。腸管内のメトロニダゾール治療後の赤痢アメーバの集落の形成を防ぐにはパラモマイシン(30mg/kg/日)を5~10日投与が有効です。症候がなく嚢子を排出する人ではメトロニダゾールによる治療コースの後に,経口ジロキサニドフロエートを成人には500mgを10日間を投与します。第3の選択枝に便に赤痢アメーバがみられる場合には,ヨードキノールをメトロニダゾール治療後に650㎎/日を20日投与する方法があります。1カ月,3カ月,6カ月後に便を再検査して再発を調べます。腸外アメーバ症に対しても,メトロニダゾールが選択薬です。
重症腸炎を含め,肝膿瘍破裂例などでは,デヒドロエメチンを1~1.5㎎/㎏/日筋肉注射で5日間前述のメトロニダゾール療法に併用投与もしてもよいです。



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